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あとがき

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あとがき

1749~1756年、スヴェーデンボリは最初の神学著作『天界の秘義』を毎年一巻ずつ8年間連続で出版した2年後の1758年に、ロンドンで五つの著作を出版しました(著者70歳)。
それらは『天界と地獄』(De Coelo et ejus mirabilibus, et de Inferno, ex auditis et visis『天界とその驚くべきことについて、また地獄について、聞いたことと見たことから』))『新しいエルサレムとその天界の教え』『最後の審判』『白い馬』それと『宇宙間の諸地球』です。

これらの著作は、大作『天界の秘義』の中の「驚くべきこと」から集めた題材を一つの主題に編集したものであり、どの著作にも『天界の秘義』の参照箇所が付いています。特に本書『天界と地獄』では分量がきわめて多くて、ある意味で「驚くべきこと」の「索引」といえるものとなっています。

ラテン語で書かれた本書は20年後の1778年に最初の英訳がトマス・ハートリー師の編集によりなされて出版され、それ以来、多くの英語版やまた他言語による訳が発行されてきました。

わが国では1910年、英訳からの重訳が鈴木大拙によりなされ、この書によりスヴェーデンボリが広く日本に紹介されました。以来、いくつかの版が発行されています。中でも1962年発行の柳瀬芳意による訳書は現在までも長く版を重ねています。

その柳瀬訳も約五十年を経ました。その間もスヴェーデンボリについてのさまざまな研究は進んでおり、中でもラテン語辞書編者であり、古代文字の解読にも成功したジョン・チャドウィック博士によるスヴェーデンボリの語彙に関する業績は多大です。

そのジョン・チャドウィックの語彙を全面的に取り入れ、ここで新たに『天界と地獄』をラテン原典から訳しました。訳出する上では、直訳に近いものにするだけでなく、何よりも著者の論理に沿った「忠実な訳」を心がけました。さらに新訳語だけでなく文体や読みやすさなども工夫してみました。

この新訳がスヴェーデンボリを深く学ぶ上で、その役に立ち、また「天界と地獄」を知ることで、人生そのものをとらえ直すきっかけとなるなら、訳者にこれにまさる喜びはありません。

1810年、スヴェーデンボリの著作を出版し、広めるための最初の組織「スヴェーデンボリ協会」がロンドンで発足しました。今年がその二百周年にあたります。前述のように、翻訳書を通して日本にスヴェーデンボリが紹介されたのがちょうど百年前であり、これは百周年を記念する事業の一つでもありました。この節目の時を祝して、この新訳が出版されたことに、またその出版のために新組織がつくられたことに、そして何よりも主の恵みに感謝いたします。

     2010年9月 鈴木之